HOME

SGU 札幌学院大学 公開シンポジウム開催のお知らせ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

日 時 2010年3月7日(日)

午後4時〜7時

場 所 B101教室(JR大麻駅下車南口徒歩10分)

テーマ べーシックインカムを検証する 

     ――どんな社会にすると、みんなの幸福が増すのか?

 

どなたでも自由に参加できます。入場無料、予約不要、当日直接会場へ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

報告1 小沢修司(京都府立大学・教授)

   ベーシックインカムの必要性と可能性

概要:全ての人に無条件に生活保障所得を給付するベーシック・インカムという制度の導入は、人間の生活保障にとって不可避である。しかし財源をどうするかが問われ、また現行の社会保障制度、税制にどんな影響を与えるのかも問われる。それらへの回答を意識しつつ、ベーシックインカムの実現可能性について経済学的立場から探ってみたい。試算では全国民への月8万円の無条件支給は十分に可能である。(本人談)

 

報告2 美馬達哉(京都大学・准教授)

   ベーシックインカムという危険なヴィジョン

概要:経済学の観点から社会福祉や所得再配分の制度としての意義や実現可能性が議論されることの多いベーシックインカムに関して、社会学や社会思想史的な見方から検討してみたい。とくにイタリアの70年代の社会運動で重視された「労働の拒否」の思想に注目し、国家がベーシックインカムをどう計画するのかではなく、人々がベーシックインカムをどう利用するのか、という側面から考察していきたい。(本人談)

 

コメンテータ 橋本努(北海道大学・准教授)井上芳保(札幌学院大学・教授)

司 会 神谷章生(札幌学院大学・教授)

―――――――――――――――――――――――

(本企画は札幌学院大学が科学研究費補助金間接経費を使って行う2009年度研究活動活性化事業の一環。井上芳保(社会情報学部、代表)、神谷章生(法学部)、佐々木洋(経済学部)の3人による共同申請企画)

A: ベーシックインカム(BI)って最近よく聞く言葉だけれど、日本語だと何だっけ?

B: 「基本的所得保障」と訳せる。全ての人に無条件に一定額の所得を保障しようという新しい公的扶助のことさ。憲法25条に「すべての国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあるけれど、この崇高な理念の金銭面の裏づけを国家が保障しますという考え方だよ。

A: 確かに何をするにしても先立つものはお金だよね。でも全ての人に無条件にお金を渡すと世の中、めちゃくちゃになっちゃわないのかなあ。だいたい、そんなお金を受け取っても結局パチンコ産業にばかり多く流れちゃわない?。

B: 現金で支給するのか、現物で支給するのかについてはBI推進派の間でも意見が別れている。でも現金で渡されたとしても、最低限の保障だからやはり生活に必要なものを優先的に買うんじゃないのかな。食べ物とか衣類とか住む場所の確保とか..。

A: それはどうかなあ。世の中の多くの人ってさ、インテリのように賢くて合理的に計算して生活できる人ばかりじゃないからね。お金の給付は人を狂わせて行くような気もするんだけど。

B: うん。その意見はわかる。でも合理的といえば現在の公的扶助のあり方が実は非常に非合理なのでもっと合理化しようという発想がBI推進論の基本にはある。例えば、現在の日本の生活保護制度って本当に必要な人をどれだけ救えているかという補足率でみるととても低いでしょ。それに生活保護には行政の審査コストがバカにならぬくらいかかっている。暴力団が制度を悪用している実態もある。しかも生活保護受給者は屈辱感を味わうし、プライバシーもなくなる。いちいち消費行動を点検されて贅沢をしていないかどうかチェックされるわけだからね。

A: もう一つの疑問は、そんなもん導入したら人々に労働意欲が湧かなくならない?って点だね。みんなが嫌がる仕事でも生活がかかってるから仕方なくやる、社会ってそれで成り立ってない?。

B: それは大事な点だ。でもトータルにみたらどうなんだろう。BI導入後はみんながやりたいことをできるようになる。今の社会ではかなり無理をして雇用を創出しているところがあるよね。例えば、公共事業でよけいな歩道橋を作ったりしてるけど、それが不要になる。「働く」ということの意義が基本的なところから変わるんじゃないかな。経済的にペイしなくても意味のある仕事をする機会が増える。例えば、子育てだってみんなやりたいからやるわけだよね。楽しいから。

A: やっぱりちょっと抵抗を感ずるね。例えば、BI導入と共に最低賃金というものもなくなっちゃうわけかな。BIって実はいろいろな規制緩和と抱き合わせになっているんじゃないの?。

B: 個人の自己責任で物事を処理していく社会とBIは意外に相性がいい。そのへんが社会主義的なヴィジョンとは違うね。規制緩和との関係などよく吟味してみるべきだと僕も思うよ。

(文責:コーディネーター 井上芳保)

■ 報告者とコメンテータのプロフィール ――――――――――――――――――――――――――

(おざわ・しゅうじ)1952年生。現在、京都府立大学福祉社会学部教授、同学部長。専攻:生活経済学、福祉社会論。著書に『福祉社会と社会保障改革――ベーシックインカム構想の新地平』(高菅出版)、『生活経済学――経済学の人間的再生へ向けて』(文理閣)など。週刊金曜日741号(2009.3.6発行)にBIの試算掲載。

(みま・たつや)1966年生。現在、京都大学大学院医学研究科(高次脳機能総合研究センター)准教授。専攻:臨床脳生理学、医療社会学、医療人類学。著書に『〈病〉のスペクタクル――生権力の政治学』(人文書院)、共著に『総力戦体制からグローバリゼーションへ』(平凡社)、『医療神話の社会学』(世界思想社)など。

(はしもと・つとむ)1967年生。現在、北海道大学大学院経済学研究科准教授。専攻:経済思想、政治哲学、社会理論。著書に『社会科学の人間学』(勁草書房)、『自由の論法』(創文社)、『帝国の条件』(弘文堂)、『自由に生きるとはどういうことか』(ちくま新書)、『経済倫理=あなたはなに主義?』(講談社選書メチエ)など。

(いのうえ・よしやす)1956年生。現在、札幌学院大学社会情報学部教授。専攻:社会意識論、知識社会学、臨床社会学。編著に『「心のケア」を再考する』(現代書館)、『セックスという迷路――セクシュアリティ文化の社会学』(長崎出版)、共著に『社会学ベーシックス2巻――社会の構造と変動』(世界思想社)など。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

連絡先:〒069-8555 北海道江別市文京台11札幌学院大学社会情報学部 電話011-386-8111 井上芳保研究室(内線5107inouesgu.ac.jp 井上芳保のWebサイトhttp://trpcr955.web.officelive.com /default.htmに関連情報掲載。